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毎度お馴染み季節イベントを完全スルーのコーポ侘助ですが、たまには世の流れに乗ってみようということで、バレンタイン小話をお届けします!既にバレンタイン当日ですが!!
例によって例の如く、こもりがみの華の無いチームでお送りします。季節イベントを書くのは、やはり現代ものが気楽でいいですなぁ…。


「ただいまー」
「おかえり。今日は早いね」
「この前から終わらなかった実験、なんとか終わってレポート提出できたからね!やっと春休みだよ!」
 いつもより早く帰宅した七緒がそう言いながら茶の間のコタツに入ると、千代婆さんはそうかい、と頷いてから、茶箪笥をごそごそやりはじめた。至って普通の冬の日の午後、こたつに入った七緒がひとつ息をつくと、茶箪笥から目的のものを取り出した千代婆さんが振り返る。
「おやつにチョコがあるよ」
「チョコ?」
 きょとんとした七緒の目の前に、箱に入ったトリュフが置かれた。いくつか無くなっているところを見ると、千代婆さんが先に開けたのだろう。何のことはない普通の既製品のトリュフだが、それを見た七緒は目を丸くした。
「どうしたの婆ちゃんこれ」
 驚いた七緒がそう聞くと、千代婆さんは小さく苦笑してみせる。千代婆さんが自分自身で洋菓子を買ってくることは非常に稀なのである。嫌いというわけではないのだが、チョコレートだのクッキーだのは七緒が率先して買ってくるので、千代婆さん自身が洋菓子を買い求めることはあまり無いのだ。
「ほら、今日はバレンタインだろう?スーパーで売っていたのが美味しそうでねぇ、つい」
「えっ、今日十四日!?」
「そうだよ」
 慌てた様子で柱に掛けてある日めくりカレンダーを振り向いた七緒に、千代婆さんは大きなため息をつく。それから、年頃の女の子がバレンタインにすら気づかないなんて、と嘆く千代婆さんに、七緒は一応の抵抗を試みた。
「だって実験のことで頭いっぱいだったんだよ!他学部なんてとっくに春休み突入してるし!」
 七緒の通っている大学も、テストと課題が終わったら春休みに突入する。学生によっては、今月の初めには春休みを満喫している者も少なくない。七緒もテストは全て終わっていたのだが、実験がなかなか終わらず、気が付けば二月も中旬に差し掛かっていたのである。
 それにしたって年頃の女の子がねぇ……と未だ呆れた様子の千代婆さんに、七緒は慌てて話題の方向性を変えた。
「そういえば、カミサマは?今年も世のカップルを呪ってるの?」
 この青島家で、並々ならぬ情熱を持ってバレンタインを迎えるのがカミサマである。何しろ、数日前から精進潔斎をして、バレンタイン当日の祈願に励むような男である。しかも世の中のカップル全てに破滅が訪れますように、という負の方向の祈願である。チョコが貰えますように、という祈願ならばまだ可愛げがあるというものだが、まぁ、可愛げがあったところでどうしようもない男であるから、そんなものなのかもしれない。
 そのどうしようもないカミサマの行方を聞けば、千代婆さんは思い出した様に手を打った。
「ああ、縁側に居たよ。ちょっと様子を見に行ってみておくれ。なんか派手だったから」
「派手?派手に呪いの儀式とかしてるんじゃないでしょうね?」
 胡散臭そうな表情を浮かべた七緒に、千代婆さんは首を横に振った。その返事に首をかしげながら、トリュフの箱を手にした七緒は、カミサマの様子を窺いに茶の間を後にしたのだった。
 
 
 七緒が縁側を覗いてみると、そこにはうつ伏せになって日向ぼっこをしつつ、3DSを弄くっているカミサマがいた。いつものしょうもないカミサマの日常であったが、今日は少しというか視覚的にかなり違った。千代婆さんの言うとおり、派手だったのだ。
 派手、と言っても行動が派手とか色彩的に派手とかいうわけではなく、形状的な派手さである。カミサマはひきこもりニートの癖に割と着道楽で、気付くと違う柄や違う織物の着流しを着ているのだが、何故か今日は指貫に狩衣という格好をしていたのだ。烏帽子は流石に無かったが。現代日本で普通の大学生活を送っている七緒にとって、狩衣などというものは通常目にするものではない。そもそも、狩衣という名前すらよく分からない。分かったのは、なんか日本史の資料集とか国語の便欄に出てくる平安貴族っぽい恰好、ということだけだ。よって、それを見た七緒が連想した単語は、非日常的な単語になったわけだ。
「……何そのコスプレ?」
「失礼な!」
 ひきこもりニートが自宅でコスプレってどうなの、とまで言われたカミサマは、起き上がって七緒に抗議したが、当の七緒ははいはいごめんごめん、とやる気の無い返事をしてカミサマの横に座った。
「で?それ何?」
 手にしていた箱からトリュフを口に放り込んだ七緒は、なんとも胡散臭そうな表情をカミサマに向けた。負の祈祷は行っていないようだが、今日の装いが胡散臭いことに変わりは無い。しかし、胡散臭そうな表情を向けられた当のカミサマは、七緒が手にしているトリュフの方が気になったらしい。頂戴、と手を差し出してきたので、七緒はトリュフを包んでいた包装紙をカミサマの手のひらに載せてやった。
「いや、今日俺旧暦モードだからこの格好」
 しょぼんとした表情でそう言いながら、己の手の上に乗せられたゴミを袂に仕舞ったカミサマは、やっと七緒に視線を移した。
「だから何それ」
 当たり前のようにカミサマは喋ったが、七緒は意味が分からない。首を傾げつつ詳しい説明を求めれば、カミサマも意味が分からないことが分からない、とった表情で首をかしげた。
「だから旧暦対応版だよ。太陽暦に対しての太陰暦。だから、今の俺は一月五日を生きているわけです」
「今日二月十四日じゃん」
「うん、新暦ではね。今年の二月十四日は旧暦では一月五日だから、まだ正月なんだよ!つまり旧暦対応版の俺にとって、今日はバレンタインデーではありません!ただの冬の一日です!」
 訳の分からない主張を展開するカミサマのドヤ顔をしばらく無表情で眺めていた七緒だったが、視線はそのままにまた一つトリュフを口に放り込むと、がりごりと物凄い勢いで噛み砕きながらカミサマに聞く。
「明日も旧暦対応版なの?」
「は?明日は2月15日でしょう?」
 馬鹿なの?と真顔で言ってのけたカミサマの頬に、七緒はとりあえず全力で拳を打ち込んだ。どぐむっ、という鈍い音が、午後の穏やかな日差しが降り注ぐ縁側に響く。
「そこまでバレンタインというイベントを回避したいのかこのクソニート!!」
 思わず立ち上がった七緒とは対照的に、七緒渾身の右ストレートを受け、力尽きた様に縁側に倒れこんだカミサマは、拳の打ち込まれた左頬を手で覆いつつも、涙目で一応反論だけは試みた。
「七緒ごときに男の純情が分かるっていうの!?」
「分かりたくもないわそんな女々しい上になんていうか溶けかけたチョコみたいにべっちょりとしたものなんぞ!」
「酷い!!」
 涙目のカミサマの必死の反論をばっさりと一刀両断した七緒は、ああアホらし!と一言叫ぶと、どすどすと足音を立てながら、自室へと向かっていった。その様子を見送ったカミサマが、もう、なんなのあの子と呟きながら手許に視線を落とすと、七緒が持ってきたトリュフの箱が残されていた。箱の中身はまだいくつか残っていて、思わずカミサマが手を伸ばすと、縁側の日に当てられていたせいか、つまんだトリュフの表面がぐんにゃりと軟らかくなっている。
「なんていうか溶けかけたチョコみたいにべっちょりとしたもの……」
 先程七緒が浴びせてった罵声をぼそりと呟くと、カミサマは表面が軟らかくなってしまったトリュフを口に放り込んだ。そのまま眉間に皺を寄せてもぐもぐと咀嚼する。
「男の純情は苦くて甘いんだから、まぁ、あながち間違ってはいないよね」
 またしても訳の分からないことを呟いたカミサマは、ばさりと狩衣の裾を直して3DSに再度手を伸ばしたのだった。

<終わり>
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