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いつもスルーしがちな季節のイベントですが、なんとかバレンタインには間に合いました…!
というわけで、いつもの『こもりがみ』の花のないメンツのバレンタイン小ネタです。




 今日も今日とて、カミサマは青島家の茶の間のコタツに入って、3DSで遊んでいた。そこへ、ぱたぱたという軽い足音と共にからりと襖が開いて、七緒が顔を出す。
「あー、いたいたカミサマ。はいよ。バレンタインおめでとうー」
 3DSの画面との間にねじ込まれた英語ではない言語のロゴの板チョコに、カミサマは思いっきり眉間に皺を寄せた。とりあえず3DSのポーズボタンを押してから、七緒の差し出した板チョコをまじまじと眺める。パッケージには全く日本語の表記が無く、その上そのパッケージは適当に破られており、長方形のはずの形は角がひとつ欠けている。どこをどう見ても食べかけである。カミサマはその食べかけの板チョコから七緒の顔へとじっとりとした視線を移して、心底嫌そうな声を上げた。
「それ、去年の年の瀬に七緒が買ってきて、一口齧って不味い!って叫んでたチョコじゃん……。その上そのまま冷蔵庫に放置されてたやつじゃん……」
「いや、なんか輸入食品の店で安売りしてたんだよ。日本のチョコ菓子が素晴らしいってことが分かる、かけがえのない一品だよ」
 ほれ、ありがたく受け取れ、と言いながら、ぐりぐりとチョコを持った拳をカミサマの頬にめり込ませる七緒だったが、流石にカミサマもこのチョコは全力で拒否したいらしい。
「七緒が買ってきたんだから、ちゃんと自分で始末しなよ!庭に埋めるとかさ!」
「勿体無いじゃん一応食べられるし!」
「じゃあ自分で食べなって!」
「嫌だ!これものっそ不味かった!!」
「不味いって言った!今この子不味いって言った!!」
 ぎゃあぎゃあと七緒とカミサマが騒いでいると、またしてもからりと襖が開いた。顔を出したのは、青島家の住人のうち、残りの一人の千代婆さんだった。
「カミサマ、これそろそろいいんじゃないかい」
「あ、お千代さんすみません」
 そう言いながら茶の間に入ってきた千代婆さんが持っていたのは、皿の上に乗ったハート形のチョコレートである。皿の上にドンと置かれた様子から、既製品でないのは一目で分かるが、千代婆さんはその皿をコタツの上に置くと、さっさと己の定位置に腰を下ろした。
「ばあちゃん、それどうしたの?」
 コタツの上に置かれたハート形のチョコレートをしげしげと眺める七緒が首をかしげると、千代婆さんはテレビのリモコンに手を伸ばしながらさらりとこう言った。
「ああ、なんかカミサマが作っていたんだよね。固まったみたいだから持ってきたんだよ」
「はァ!?」
 驚いた表情で七緒がカミサマを見ると、カミサマは無言でその皿をずるずると己の前に引き寄せている。その表情は無の境地に近いもので、七緒はカミサマの表情を伺いつつ声をかけた。
「ねー、カミサマ?チョコが貰えないからって、いくらなんでも自作はどうかと思うよ?しかもハート形ってどうなの?虚しくないの?心の健康大丈夫?やっぱこのチョコ貰っておいた方がいいんじゃないの?」
 そう捲し立てた七緒に、カミサマは心底鬱陶しそうな顔を向け、七緒が手に持った板チョコをちらりと見てから、大きく首を横に振る。
「だが断る。ちなみにこのチョコはそういうのじゃないから」
「えー?自分で作ったハート形のチョコなんて、どう考えてもそういうのでしょ?」
「ちーがーいーまーすー。昨今の日本人は忙しいから、2月の行事をまとめたらいいと思うんだよね」
 そう言いながら、カミサマが牛首紬の袷の袂から取り出したのは、針の束だった。ざらりとコタツの上に広げられた針は、裁縫用の細い針とは比較にならない太さの針である。見慣れない針に、七緒はぎょっとしたように少し身を引いた。
「……なにそれ」
「畳針」
「今の子は見たことないかもしれないねぇ」
 千代婆さんが、懐かしいねぇ、などと言いながら、最早エグさを感じる太さの畳針を手にしている。その畳針をカミサマも手にすると、すぅと息を吸って目を閉じた。しばしそのままの姿で微動だにしなくなったカミサマに、七緒が恐る恐る声をかける。
「ちょ、あの、カミサマ……?」
 七緒がカミサマの肩に触れようとした次の瞬間、カミサマはカッと目を見開いて、手にしていた畳針を手元のハート形のチョコレートに勢いよく突き刺した。カミサマはその勢いのまま、次々と畳針を無言でチョコレートに突き刺していく。見開いた目といい、怒涛のようなその勢いといい、正直目の前で見るには怖すぎる状況である。
 七緒は千代婆さんに助けを求めるべく視線をやったが、マイペースの極みである千代婆さんは、楽しそうにテレビの五輪中継を見ているだけである。目の前で行われている邪法より、冬季五輪が気になるらしい。改めて、己の祖母の神経の太さに半泣きになった七緒であった。
 そして七緒が千代婆さんの胆力に半泣きになっている間に、カミサマは手持ちの畳針を全てチョコレートに突き刺したらしい。やり切った表情を浮かべて、ふぅ……などと言いながら爽やかに額の汗を拭っている。手元にはどう形容しても爽やかとは言えないチョコレートが鎮座しているわけなのだが。
「ちょっとカミサマ……。それ何の呪いの儀式?うちの茶の間を呪術の現場にしないでよ……」
 禍々しいチョコレートをチラ見しながら、七緒がドン引きした様子でそう声を上げると、カミサマは先程までの鬼気迫る様子は微塵も見せず、けろりとした様子で七緒を見返した。
「いや、ほら、現代日本人は忙しいから、針供養とバレンタインを一緒にしたらどうかなって思ったんだよね。このチョコを彼氏に渡せば、家庭的な女子アピールもばっちり!女子力の低いあなたにもハッピーバレンタインを約束します!」
「いや、こんなチョコ渡されたらどう考えても殺害予告だと思うでしょ。ドン引きで済めばマシな方でしょ」
「まぁ、俺としてはバレンタインという日を満喫するリア充どもが一組でも減ればそれでいいんだけど」
「縁結びの神様とは思えない発言だねぇ」
 カミサマがあっさりゲロった内心に、千代婆さんがけたけたと笑い声を上げる。先程のカミサマの様子を見ているので、七緒はそんな風に流すこともできない。嫌なものを見てしまったという気分で思いため息をひとつついたところで、目の前に禍々しいチョコレートの皿が押し出された。
「じゃ、七緒これあげるから」
「は!?嫌だよこんなのいらないよ!?自分で処分してよ!」
「いや、流石に自分で作ったハート形のチョコ食べないよ。いくら俺でも心が折れる」
「わたしだって嫌だよこんな邪念が籠ってるもの口にしたくないよ!」
 お互いの目の前に皿を押し戻しながら、七緒とカミサマはまたぎゃあぎゃあと騒ぎだす。五輪中継を邪魔された千代婆さんが、その問題のチョコレートを牛乳に溶かしたものを三人分持ってくるまで、七緒とカミサマの程度の低い言い争いは続くのだった。

<終わり>

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